映画「荒野に生きる」(1972、原題:Man in the Wilderness)は、実際にあった事件をもとに映画化したという。
川を行くときは風をはらんだ帆に動力をまかせるという水陸両用で、キャプテン・へンリー(ジョン・ヒューストン)に率いられた一団を案内するのはザック・バス(リチャード・ハリス)だ。
彼は幼くして孤児となり、親代わりのへンリーによって育てられた。
この辺一帯はリッカー族インディアンの居住地域で、一行は少しでも多く高価な獲物を持って逃げだそうと考えていたが、背後にはリッカー族が近づいていた。
その頃ザックは鹿を捕えるため森の中に入り込んだが、7フィートもある大熊に襲われ、瀕死の重傷を負った。ヘンリーは進行が遅れることを恐れ、ザックを間に合わせの墓場に聖書と共に投げ込んで立ち去ったのだった・・・。
迫りくる死への恐怖におびえながらも、体を動かすことすらできず、やがて彼は意識を失っていった。生死の境をさまよいながら、ザックはまだ夢見ていた。
幼い頃からの聖書に対する憎悪、樺の木の鞭で打たれた学校時代、グレイスとのロマン、結婚、出産・・・。
ようやく意識を取り戻した彼は、ザリガニや虫を手当たり次第食べることで、かろうじて命をつないだ。
一方、ザックのいないリバーボートの一団は道に迷い、背後からはリッカー族が足音もなく近づいていた。その頃ザックの傷は急速に癒え、自然のリズムに順応できる人間になっていた。
そして妻の死をいたむ気持ち、その死の後ですげなく捨て去った子供への哀惜の思いが、今になって彼の胸を激しく刺した。
ヘンリーに復讐するために出発する時がきたのだ・・・。
復讐心に燃えたザック(リチャード・ハリス)のひげぼうぼうの野性味あふれる演技が見所だった。復讐するために、ヘンリーの一群に追いつくが、そこでは、すでにリッカーに襲われた後の無残なヘンリーたちの壊滅的な一段の姿があった。
リッカー族もザックの様子を見て、状況を悟り「好きなだけ復讐すればいい」という寛容な態度を示す。
そんな状況では、復讐心も薄くなり、静かにその場を立ち去った。捨てたわが子を探す旅にでたのである。西部を舞台にしているが、西部劇というよりは、人間ドラマという印象だった。
監督としても有名なジョン・ヒューストンが俳優として、貫禄を示していた。