「ファイブ・イージー・ピーセス」(1971)、ジャック・ニコルソン主演。
独特の個性的な演技で注目されていくことになるニコルソンの原点ともいうべき主演映画である。
ちょっとぐうたらで、虚無的で、怒りっぽい役を演じたら、ぴか一ですね。
ほとんど、「イージー・ライダー」(1969)の続編といってもいいような映画だった。仕事、家族、
女さえも、およそ愛することから離反し彷徨する無目的なヒーロー(ジャック・ニコルソン)が、
「イージー・ライダー」に続いて出演。ニコルソンにとっては、本格初主演映画となった。
製作総指揮も「イージー・ライダー」のスタッフ。監督はボブ・ラフェルソン。撮影も「イージー・
ライダー」のラズロ・コヴァックス。出演はジャック・ニコルソンのほか、「イージー・ライダー」
にも出ていたカレン・ブラックのほか、「エデンの東」のロイス・スミスなど。
「卒業」「俺たちに明日はない」「明日に向かって撃て!」などに始まる、アメリカン・ニュー
シネマの延長に位置づけられる1本だったようだ。
ジャック・ニコルソンは、最近の重量感あふれる演技で注目された「ディパーテッド」にいたるまで、
一貫して、反骨・反体制の役を演じることが多かった。「イージー・ライダー」では、助演級だった
が、特殊改造バイクの後ろに乗り、ピーター・フォンダ、デニス・ホッパーの主演二人に劣らぬ
存在感を示した。この「ファイブ・イージー・ピーセス」では、やけっぱちで、短気な労働者を主役
で好演した。
映画全体に、当時の“ヒッピー”の流れを汲むような虚無感、無目的感がただよっていた。ロバート
“ボビー"(ジャック・ニコルソン)は、今はカリフォルニア南部の石油採掘現場で働く日雇い労働者。
その日その日をしのげればいいという仕事をしていた。いつも相棒エルトン(ビリー・グリーン・ブッ
シュ)と朝から酒を飲み休んでしまう。レイティー“レイ"(カレン・ブラック)というウェイトレスと
同棲しているが結婚の約束をしているわけでもない。
何に対しても積極的な姿勢を示さず、怠惰な毎日を送っている。ボーリング場で拾った女と一晩中
遊んで帰ると、レイが仕事にも行かず泣いていた。ボビーは不愉快になり家を飛び出す。レイは妊娠
していた。そして正式な結婚を望んでいたが、ボビーにはまったくその意志はなかった。
ボビーは町の放送局へ姉のティタ(ロイス・スミス)を訪ねる。彼女はクラシック・ピアニストで
あった。彼女は父が卒中で倒れたから見舞いに家に帰ってきてほしいと告げる。ボビーはもう3年も
家に帰っていなかった。
翌日、現場でエルトンから、妊娠した女と結婚して家庭をもつのは男の責任だと説教されるが、喧嘩
になり、毒づいて仕事をやめてしまう。その時、2人の男がエルトンを追いかけ、助けにいった
ボビーも手錠をかけられそうになる。エルトンは保釈中に逃げだした強盗犯だったのだ。
家に帰って荷物をまとめていると、棄てられると思ったのかレイが泣き出した。ボビーは1人で出発
するつもりだったが、思い直してレイも連れていく。車はボビーの実家に向かった。途中アラスカに
行くというヒッピー女2人を拾う。アメリカ中がゴミで溢れ、人間の住む所はなくなった。不潔に
なりたくないから清潔なアラスカに行くのだとヒッピーは言うのだった・・・。
当時、病めるアメリカという言葉がはやったが、ベトナム戦争後の疲弊し
きったアメリカの断片を切り取って見せた。
今更ながら、ジャック・ニコルソンの役者としての演技と息の長さには驚かされる。